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悲しい事実

もう5~6年くらい前になるでしょうか。
NZにワークで来てフルタイムで働いていた頃の話し。
しばらく勤めていたジュエリーのお店を辞めて、大きなインテリア関係のお店で働き始めました。ずっと服飾関係だったので、すべてのものが新鮮でね、素敵にディスプレイされた店内にはお洒落なインテリア小物やモダンな家具たち。
大勢いるスタッフたちは国際色豊かでフレンドリー、日々楽しく働いておりました。

ファニチュアーとホームウェアのセクションに別れていて
私はバスルーム関連エリアの担当をしていました。
これから暮らしを共にすることになったであろう、若いカップルが歯ブラシ立てやお揃いのタオルなんかを仲良く選んでる光景はとっても微笑ましかったし、
またウェディングレジスターのリスト作りでケンカをはじめるカップルもいたりして(苦笑)
そしてときに、いつもTVで観ている面々たちのサーブをすることもありました。

仕事にも慣れてきた頃、スタッフたちともすっかりうちとけて。
なかでもいつもブレイクタイムが一緒だったファニチュアー部門のGとはよく話しをしました。
インド人の彼には5歳になる息子がいること、パートナーの女性と最近家を買ったこと、
そしてその家の一部改造工事がなかなか進まなくて困ってることなどなど
さすがインド人だけあってお金の話しも多かったかな
どうやってセーブするかとか、どこの銀行がいいとか・・・
でも家族の話しになると表情が一気に和らいで
「オープンキッチンで息子とお喋りしながら料理するのが楽しくてね。」
と嬉しそうに言いながら、お手製のチョコレートケーキを持ってきてくれたこともありました。

のんびりムードのホームウェアの私たちと違って
コミッション制のファニチュアー部門は競争率が激しくて
ときにピリピリした雰囲気がこちらにも伝わってくるほど。
身なりをきちっと整えてクリーンなイメージの彼は、仕事もとても真面目で
常に売れ上げもトップ。上からの評判も上々で
こうなるとまわりのスタッフたちがおもしろくない。
年配イギリス人のFとフィジー人のKが文句を言ってるのを何度も聞いたことがあるし、
他のスタッフたちからもかなりの嫉妬を受けていたに違いない。

こんな状況を肌で感じながらもモゲージを抱えてる一家の主は
それからもどんどんと顧客を増やし、会社からも表彰されて
ファニチュアーのマネジャーへの昇格の話しも出て
彼の仕事は波に乗っていた。

そんなある日。
いつもは後ろから元気におはよう!と声をかけてくる彼が
どんよりと首を下に垂れてとぼとぼと歩いていたので
「おはよう、G!どうしたの今日は元気ないけど?」
と言って彼の顔を見た途端、はっとしてしまった。
真っ赤な目の下には大きな隈、そして今にも吐きそうな面持ち・・・
 ・・・!!
「家に、家に帰ったほうがいいわ、マネジャーには私から言っておくから!」
と言う私に
「大丈夫。」 と、弱々しく言った彼はまるで別人のようだった。

その日から数日、ときおり彼を見かけたもののゆっくり話しをするチャンスがなくて・・・

そしてその後、仕事場で二度と彼の姿を見ることはなかった。




ある日の朝、ブランチの責任者が来ていたので何事かと思っていたら・・・。

後にフィジー人のKが大騒ぎで私たちのカウンターにやって来て
「ちょっと、事件よ事件!!Gが牢屋に入ったらしいの!」

は?!?

顔を見合わせる私たちに

だーかーらー、警察に捕まったって!違法滞在、彼の名前もぜーんぶ嘘っぱち、
どっかの墓場から盗んできたベイビーの名前だってさ。ファミリーのも全部、怖いね~
インドでも指名手配中だって聞いたよ~

もう何がなんだか訳わからなくなって
あの彼と、今聞いたことが私の中でまったく結びつかない・・・
大きなハンマーで頭を打たれたような激しいショックを受けた。

今まで仲良くしてたホームウェアのスタッフたちも手のひらを返したように面白おかしく彼のことを罵っているし、他のファニチュアーのスタッフたちも加わってみんなゲラゲラ笑っていた。

いろんなことが頭の中でぐるぐるまわって
この状況、笑うとこじゃないでしょう!と苛立ちながらも
さっき聞いたことがまだ信じられずにいた。

次の日。
ランチルームに行くと誰が置いたのか、彼のことに関しての新聞記事が大きくコピーされて、テーブルの上にあった。
会社としてはこの状況、ふつうは隠したいんじゃないのと思いながら、また誰かが面白がってやったのか、そう思うと再び溜め息が出た。
新聞記事には、きのうキャシーが言っていたのと同じことが詳しく書いてあった。
彼がパートナーと言っていた女性は実は奥さんだったこと、子供も含め偽のパスポートを持ってたことなんか・・・ でも、私にはどうでもよかった。

テーブルの向こう側にぽっかり空いた椅子を見て
ここで彼が楽しそうに私に話していた家族や家のことなんかは本当だったんだろうな、と思う。
自然豊かなこの国で家族揃って幸せに暮らしたかっただろう。
マイホームを手に入れて夢を叶えつつあったのに
違法な手段を使ってしまった悲しい事実・・・

あとからドヤドヤやってきたスタッフたちが
「あ、これこれ!まったくわかんないもんね~ 別人を演じてたわけでしょ?!
こんな人が身近にいたなんてぞっとするわね、あ、強制送還だって。当然よね~」

騒いでる若者たちを横目にあったかいコーヒーを飲む。
は~

ときどきお店に遊びに来ていた奥さんと僕。
ふと、あのかわいい男の子の笑顔が浮かんで
胸が苦しくなった。


あれから月日が流れてこのことも忘れかけていたけれど
TVや新聞でイミグレーションに関することを見聞きするたびに思い出す。

今ごろ立ち直ってどこかで幸せに暮らしているのだろうか。
by moana_nz | 2007-08-06 18:48
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